仮題

浅いオタクの戯言

蒼の彼方のフォーリズム Perfect Edition 感想・上(ネタバレ有

プレイにいたるまで

何となく爽やかな空と白い雲、青い海が見たい季節になったので(プレイしたのは6月)

 

・背景CGが綺麗で、(空!雲!海!)

・絵が好みで、

・ストーリーもそこそこ面白い

エロゲを探したところあおかなにたどり着き、ビジュアルに惹かれたのとエロゲオタクの友人に聞いた所おすすめできるとの事だったのでプレイ。

自身のエロゲ歴は水夏を大分前にやっただけの初心者。ノベルゲーまで入れても精々シュタゲ位。

ちなみにR18要素は特に求めてないので評価無し、あしからず。

 

総評

構成としては一本道の共通√が六話まで。その後六話終盤で個別√に入って七話+最終話なので実質八話構成?そして4ルート全て攻略するとFINALEへ…

 

エロゲといえば厳密なフラグ管理と緻密なセーブデータ網による全CG回収、という固定観念があったので想像以上にシンプルなシステムに若干拍子抜けしたが、この位でエロゲ初心者にはちょうどいいのかもしれない。それとシナリオが各話ごとに独立していて、各話に豪勢にも予告編アニメーションまで付いているという驚き。最近のエロゲはすごいなあとか感心してたが調べるとどうもこの作品特有らしい。

 

各√攻略順は

真白→莉佳→みさき→明日香

の順番。一応戦略としては期待でき好みではなさそうなルートから順番に、ただ個人的本命のみさきよりは正ヒロイン枠っぽい明日香√の方が盛り上がるのではという予測から明日香√を最後に。理由は後述するが結果としてはこの順番で正解だったと思う。

 

プレイ後の評価としては高い方から

みさき→明日香、真白→莉佳

の順番。明日香√が期待していたほどは盛り上がらなかったが、結局物語の展開上最後に来るべきなのかなとは思ったので結果オーライ。ただ真白√が事前の予想以上に評価が高いのは真白√におけるみさき補正も入っているので…まあ、ね?

 

以下ネタバレ注意


 

 

真白√感想

「努力か、才能か」

 

真白の話…に見せかけた真白とみさきと昌也の三人の物語。

あおかな自体が割と燃えゲー寄りな話だが、その中では一番恋愛寄りなお話。結果として話のスケールは各ルートでも最も小さくなっており、他ルートではクライマックスのはずの秋の大会も「どうにもならない」(マネージャー談)の一言で終わるという扱い。

だがその分真白との恋愛描写に比重が多く割かれ、真白との付き合いたての中学生みたいなベタベタの恋愛を体験することができるルートでもある。

 

ただこのルートの真髄は真白を介して繋がる昌也-真白-みさきの三人の関係性であり、また真白とみさきに象徴される「努力と才能」の対立構造である。 

秋の大会を控えて部活に来なくなったみさきがふらっと昌也のバイト先に現われるシーン。ここでの会話が非常に示唆的である。

 

みさき「才能と努力、どっちを信じる?」

昌也「みさきは努力と才能、どっちが勝つと思う?」

 

そもそもみさきは夏の大会で明日香というより大きな才能を前に挫折を味わい、一度は選手としてFCからは引退を宣言していた。とはいえ練習の手伝いなどの名目で部活自体には参加していた所、真白が着実に実力を伸ばしているのを目の当たりにして再び部活に顔を出さなくなっている。

もちろんかつて格下に見ていた相手がいつの間にか自分に並び、追い抜こうとしている事に対する焦りや恐れもあるだろうが、それだけでは無い。みさきは努力によって実力を伸ばした真白が生来の才能による実力で飛んでいた自分を超える事、そして同時に努力したはずの真白がそれでも自分を超えられない事、そのどちらをも等しく恐れているのだ。

 

即ち、明日香の圧倒的な才能を前に挫折し明日香に勝つことを諦めたみさきとしては、才能が努力に勝ると結論付けることで自分の挫折を正当化できていた(全ては生まれ持った才能によって決定される、ゆえに自分の生来の才能では明日香の才能に勝てなくても仕方がない)。なのでもし努力して実力を身に着けた真白という存在が自分を超えたら、自分の挫折に言い訳が出来なくなってしまう。一方でそれでもなお真白が自分を超えられなかった場合、生まれ持った才能はどうしようもない、自分の才能ではどう足掻いても明日香には勝てないという現実を更にはっきりと突きつけられてしまう。この板挟みの状況にあるが故にみさきは上の昌也の問いに対して「……考えたことないな」と回答を拒否したのである。

 

そしてみさきが陥ったこのジレンマと全く同じ状況にあるのが昌也である。昌也もまた幼少期のみさきという自分より大きな才能を前に絶望し、空を飛ぶことを諦めた人間である。しかしその昌也は逆に「昌也はどっちが勝って欲しい?」と問いかけられて「……真白かな。そうすれば全部うまくいくような気もする。」と答えている。本来であればそれは自分の数年間にも渡る挫折や諦めを全て否定するものであるにも関わらずだ。

 

この一見同じ状況にあるはずの二人の答えを分けたのが真白の存在である。真白は昌也との約束の一勝、そして自身が部活に打ち込むことでみさきに部活に復帰してもらうという目標(それが奏効するかは別としても)のためにひたむきに努力を重ねてきた。その姿を間近で見てきたらこそ、昌也は自らの挫折を守る為ではなく真白の為に真白の勝利を願うことができ、オールブルーの挫折を乗り越えようと決断する事が出来たのである。そしてかつてみさきに救われた真白と、その真白に立ち直るきっかけを与えられた昌也が二人で、今度は逆にみさきを挫折から救うための試合に臨むのである。

 

以上の構造を踏まえると、このルートのクライマックスであるみさき対真白の練習試合において真白が背負ったものが見えてくると思う。真白は自身の為は勿論として昌也との約束を果たす為、そして更にみさきに部活に復帰してもらう為にみさきに勝負を挑んだが、その試合の勝敗はみさき(と昌也)にとっては才能と努力のどちらが優越するのかを証明する意味を持っていた。

そしてその勝負において真白がみさきに勝ち、努力の優越を示したことで初めて真白は二人の”天才”の挫折を破壊し、彼らに救済をもたらす天使となったのである。

 

その他特筆すべき点

本作唯一の眼鏡枠かつ(実質)唯一のヒロイン母親枠

 

 

莉佳√感想

「ホラーに怯える優等生」

ヒロインの所属からして当然のことではあるのだが、他√と比べると少し本筋から離れる…というか外伝っぽい?独特な雰囲気のある話。

 

大筋としては「ラフプレイを主体とするライバルに勝つための練習の中で莉佳の弱点であった素直すぎるという欠点を克服し優等生としての殻を打ち破ることができる、ついでに闇落ちしてたライバルとも和解する」というシナリオである。

この話の特徴は、単純に強い敵と戦うというだけでなくその敵役がヒロインに(あるいはFC自体にも)強い憎しみを抱いており、その悪意を持って襲い掛かってくる点である。加えてあまり黒渕の背景が語られない点とも相まってホラー要素を感じさせるストーリーである。

 

ただホラーである以上原理的に仕方ない事ではあるのだが(語られない、つまり分からないという事は恐怖の本質の一つである)、純粋にバトル物という観点からみるとやはり黒渕の背景が十分に語られない事から他のルートほどは黒渕との対決に心情的に入れ込みにくいというのが残念な点であったと思う。

 

一方昌也に関しては4ルート中唯一最終的に昌也が過去の挫折を乗り越える描写がない、というかそもそも過去の挫折に触れることもなく、最終話ラストで

「過去を持ちながらも、引きずられずに今を生きている」

「否定じゃなく、受け入れることで得られるものがある」

とは言ってうまい事挫折した過去を無かった事にしようとしているも

「まだそれははっきりと形にはなっていない」

「……一緒にいるうちに、見えてくるんじゃないか」

という良く言えば楽観的な、悪く言えばなんとも締まりのない投げっぱなしな終わり方をしている。

せっかく「ある程度までは順調に実力を伸ばしたものの壁に行き当って苦しんでいる」というかつての昌也と同じ状況にあるのだから、その打開を通して昌也自身の挫折も昇華させることはできなかったのかと思ってしまう。やはり他の三ヒロインとは格の違う”サブ”だからそこまでは至れなかった、と考えてしまうのは穿ち過ぎだろうか。*1

 

シナリオに関しては厳しめな評価になってしまったが、ただ上述した外伝っぽい、本筋にあまり関わらないというのも悪いことばかりではなく、本筋には関わりの薄い周辺キャラや本筋では描き切れない各キャラクターの細かい描写に多くが割かれているという事でもある。

 

以下、具体例

・全登場人物中随一の私服の可愛さを誇る(偏見)佐藤院さん

・(グランドEDを除けば)四ルート中唯一七人全員がそろった部室

・昔はキレると突然怒鳴り込みに行ってた葵さん、とかつての葵さんとの関係を匂わせてくる白瀬さん(明日香√でより顕著ではある)

・練習中のSDキャラ(いまいちSDキャラと普通の等身のキャラの使い分けが分からんが)

・名門高藤の重圧を背負い、ただでさえカリスマが抜けた所に他校からの襲撃者により士気が崩壊した部員をなんとかまとめようと奮闘する健気な佐藤院さん

・高三の夏にもなって2ch見てるとかdisられつつも地味に体育大の推薦に通る部長

・思いやりにあふれ人望があるにも関わらず、名門のトップとしての立場からいつもは名字呼びであえて部員との距離を置いているのに試合前に緊張と恐怖で震えてる後輩に突然名前呼びして励ましてくる佐藤院さん

・一見すると完全にトラディショナルジャパニーズホラーの登場人物だった風貌からまるで別人かと思うほど顔の変わった黒渕霞

・霞だけでは気付かなかったがどうみても旧海軍の駆逐艦から名前取ってる堂ヶ浦三人娘*2

等々…

 

ちなみに登場時こそ完全にネタキャラ扱いされつつもその実非常に魅力あふれるキャラクターだった佐藤院さんだが、その置かれている立場の違い故か各ルートにより少しずつ性格が違っておりそれぞれのルートの見所になっている。*3

 

下に続く

*1:後は単純に四シナリオが全て同じ展開だと面白みに欠けるので一つくらいは…的な

*2:睦月型一番艦「睦月」、吹雪型四番艦「深雪」、朝潮型九番艦「霞」なお共通点は分からん模様、ちなみにみさきの部屋に飾ってある比叡の存在からしても制作陣にミリオタがいるのは確定的に明らか

*3:シナリオライターが違うからだろなどと野暮な突っ込みをしてはいけない